ふわふわ

「いくら遺伝子が違うからといってもですよ、我々と同じ姿の動物を食べる事には、やはり倫理的な問題が……」

偉そうなコメンテーター達が話す事は、私達の事ばかり。もしかしたら、なんだかんだ言いながら私達の事が大好きなのかも。

人の姿をした私だって、車の姿をした私だって、薄皮一枚剥げば、コブクロの塊になる。食べられるために作られた私達を、同じ姿をしているから食べたくないだなんて自分勝手。姿だけじゃなくて、味も見てほしいな。

ん、この交差点は右なんだ。ありがとね、私。


市街地に入ってからずっと渋滞に巻き込まれてる。イザカヤで私達を待っている人達が居るのに渋滞だなんて、迷惑な話。

「間違って発注しちゃいました!コブクロ大放出セール!!」

空で輝くネオン飛行船が、私達の向かっているイザカヤについて宣伝してる。私達も間違った発注なのかな。私達の中にいっぱい詰まったコブクロも、邪魔者になるのかな。邪魔者の味を見てくれる人は、本当に居るのかな。私達がイザカヤに行く意味は、あるのかな。

「クラゲの形って子宮に似ているじゃないですか。
その上、水の中でふわふわしている。つまりクラゲを食べる事は、自由なお宮を食べる事と一緒なんですね」

ラジオはずっと、クラゲについて話してる。クラゲが何かはよく知らないけれど、私達よりも受け入れられてそうな感じ。私達と同じ形をしているのに、どうしてここまで差が出るんだろう。もしかして、水の中でふわふわしてないからダメなのかな。

ねぇ、イザカヤに行くのなんかやめて、私達も水辺でふわふわしちゃおうよ。そうすればきっと……ごめんなさい。やっぱり新鮮なうちに食べてもらいたいもんね。水の中でふわふわなんてしたくないよね。

あれ、あの交差点は左なんだ。間違ってたみたい。ありがとね。


どこかで道を間違えたのかな。でも、間違ってたら私が教えてくれるはず……そっか。私もイザカヤに行きたくなかったんだ。一緒だね、嬉しいな。

海の中、私と私、ひとりだけ。私は人で、私は車。
こんな姿だとふわふわできないね。そうだ、薄皮を剥いであげる。ぺりぺり。ついでに私も剥いじゃおう。べりり。

コブクロになった私達が、海の中に消えていく。早く、私達を邪魔者扱いした人達を驚かせてあげたいな。私達だって、水の中でふわふわできるんだぞって。

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