お話

Aの手記

「探さないでね。探してもきっと見つからないと思うけど」 それは、チラシの切れ端に書かれた、とても身勝手な置手紙だった。この日が来るまで、大切だ…

土手の魚

「我々の根気強い話し合いが身を結び、市民団体様にもご理解頂けまして、そのおかげもありまして、この地にも、我々の総合施設を建てる運びとなったわ…

浸透圧

数年に一回、長老が選んだ者に、「禁じられた運河」を下る名誉が与えられる。この名誉は何よりも尊い物で、受け取った者は喜ばなければならない。私た…

植付け

ご主人に食べられて、気付いたらこの場所に居た。ここがどんな場所なのかは分からない。けれど、とても温かいから、きっとご主人の大切な場所なのだと…

楽園

「最近の家電はスゴくてさ……」 典型的な給与所得者めいた外見の男が、虚空に向かって話しかけながら、割れたグラスを傾ける。赤く濁った液体が、男の…

オートマトン

交通事故で入院していた結が、機械の体を引っさげて、私の前に姿を表した。 「寝たきりは嫌だから、機械の体にしてもらったよ」 交通事故で長い間入院し…

弾けて消えた

最後にシャボン玉で遊んだのは、いつだっただろうか。あの時の、澄んだ空を泳ぐ泡は、虹色に輝いていた。 ふと、あのたゆたう虹色を見たくなった。善は…

ずっと一緒

ボクは、ご主人のことが大好きだ。だから、ご主人のお願いは絶対だ。 「君を食べたいんだ」 だから、このお願いを聞いたとき、ボクはどうしようか悩んだ…

茶番

「アァッ……」 彼女の大切にしていた髄が、ぬろりと引き抜かれていく。石英を彷彿とさせる瞳が、大理石の如く濁っていく。口からは白い泡を噴き、床に…

自力救済

「きっと上手くいく、きっと」 画面の薄暗い光に照らされながら、男が呟く。男の周りには、大小様々なケーブルが複雑に張り巡らされている。まるで蜘蛛…

拾得場所:湖畔

あの時私にくれた、好きの気持ち。その気持ちだけでここまで来られるなんて、思ってもいなかった。 初めて受け取った、淡白だけれどぎゅっと詰まった好…

風鈴

風鈴の清らかな音色に目が覚める。空が紅い。知らないうちに、長い昼寝をしたらしい。気付けにと、ぬるくなったカルピスを喉に流しこむ。汗ばんだ体を…

捕食ごっこ

後に残さないように、跡を残さないように。うなじにそろりと口を添え、舌で甘露を掬いとる。いつもと違った濃密な感覚に、体が蕩けて蒸発してしまいそ…

遅れがでています

ドスン。頭に走る鈍い衝撃が、夢見心地の意識を現実に引き戻した。 五体投地の姿勢を取る僕を、少女らしき生物が見つめている。彼女は人間に極めて近い…

打ち上げ花火

最近よく、幼い頃に連れられた花火大会の夢を見る。世間がミレニアムに騒いでいた、まだ世界に家族しか居なかった頃の夢だ。 夢はいつも、女性のアナウ…

参拝

ぴっちりと閉じた鳥居からは、清らかな湧き水が流れてくる。粘度の高いそれは、朝日を浴びた露のように美しく煌めいた。紅い穂先は、私を歓迎している…

遠く、遠く

「また夢に近づいたんですね。遠くに行っちゃうのは寂しいけれど、嬉しいです」 帰りの電車、二人だけの密室で、あなたが語りかけてくる。確かに夢へ近…

バーチャリティ

サウスランドアトモスフィアがフォトショップされた背景と、海の淡水に濡れるアジアンガール。JPEG特有のブロックノイズが、その姿を妖しく彩って…

黄昏

移動スーパーの食べ物には毒が入っていて、食べ続けると頭がおかしくなってしまう。彼女がこんな事を言い出したときに、笑い飛ばしてあげればよかった…

写真

「写真に撮られると、魂を吸い取られる」 写真がまだ珍しかった頃、このような話が、真しやかに囁かれていたらしい。今から見れば荒唐無稽としか思えな…

パルク

ここは何処だろう。空が青くギラついていて、眩しい。周りにはドア一つすら見当らない。目の前には、テラテラと光る甲冑が……獲物だ!自慢の足で、ほ…

におい

元はと言えば、あなたが悪いんだ。私を好きだと言ってくれたクセに、いろんな男に色目を使って。 好きだと言ってくれたとき、凄く嬉しかった。その時か…

押し売り

世に満ちた角が、今日も私を襲う。鋭利な現実をこっちに押し付けないで。お願いだから。痛い、痛い、痛いよぉ。 涙が角に引き裂かれる。その姿はまるで…

ふわふわ

「いくら遺伝子が違うからといってもですよ、我々と同じ姿の動物を食べる事には、やはり倫理的な問題が……」 偉そうなコメンテーター達が話す事は、私…

後の後

短冊切りされた映像、四方に亀裂が走り、いまにも割れそうな音声の破片。文化が、ジャーの中で無秩序に、しかしはっきりとした感触を持って蠢いている…

現代のネクロマンサー

県道██号線、人通りも電波通りも無い山道を走り続けて3時間。カーナビは、1時間前から同じ場所を指し続けている。何時終わるともしれない道路に憤…

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[再生開始] 「言い伝えは本当だったんだな……」 外装が著しく破損した汽車が映し出される。ディーゼルエンジンの駆動音が反響している。 「これに乗れ…

乗継駅

あなたに会った日から、私の生活は大きく変わりました。同じ繰り返しの毎日が、刺激に満ちた、奇想天外な物に変化を遂げたのです。 想像も付かないよう…

モザイク

「感情を刺激する事で、健康寿命が大幅に減少する」という研究結果が世に知れ渡り、社会の至上命題として「感情を刺激しない」事が挙げられるようにな…

帰路にて

……これは何だ?無味乾燥な情報を映し続ける退屈なサイネージの上隅に、細く細かな白文字が浮き上がっている。 注視している事に文字が気付いた。気付…

仮面舞踏会

彼女は頂点が全てにおいて優れている、という事が嘘である事を知っていた。自分の価値を理解していたのだ。 不合理な行動や、従順な姿勢。それら全ては…

ピュアリティ

この場所の外にも世界が広がっているという事を教えてくれたあなたと初めて会ったのは、上の壁が光る点に覆われた、少し肌寒い夜の事です。 あの日、あ…

石柱

道に多種多様な石が立っている。旧世代の文字シンボルが彫り込まれた石柱や、何者でも無い物を象ったスタチュー、もはや原型をとどめない砂嵐。もしか…

前頭葉

酒に飲まれ爪弾きにされていた彼に話しかけたのは、ヤス合成酒をあおりながら独り言ちる姿に、懐しさを感じたからだ。 仕事の愚痴、趣味の話、そしてや…

IMG_0001

「あなた、最近ずっとコンピュータばかりしてるじゃない。たまには掃除の手伝いをしてほしいんだけど……」 「今IMG_0001を見ているから手が離…

枕花

「昔、死者に花を手向ける風習があったらしいのです。」 物知りな友人がそう教えてくれた事を思い出しながら、花を手向ける友人達の姿を見ていた。目の…

路地裏にて

26:00。終わる事の無い残業の息抜きと、気紛れに入った路地裏で、少女と男に会った。 不自然な程に発達した性器を武器に、悪趣味な男性達から性と…

テトリスフラッシュ

夏の夕暮れ、セミが法定の休憩時間を取る時はいつも、嗄れたあの声を思い出す。 物心の付く前、ボタンを押すだけでも十分楽しめた頃、仕事の都合で母方…

コアダンプ

マスコットキャラクターが仲良く暮らす世界に、「国民」等のイデオロギーは似合わない。純粋な世界に剥き出しの欲望は溶け込まない。 森羅万象あらゆる…

微睡みの中へ

果てた時は何時も、微睡みの中へと誘われる。そこは、霧のように儚く、そして、ネオンライトのように悲しい。懐しくも感じるが、どこかは分からない。…

夜の白昼夢

突発的な旅行で、腹拵えをしようと立ち寄った店が、既に廃業していた事で落胆していた私の目に、「知の??(失念)はこちら」という怪しい立ち看板が…

はざまに見る

現実と理想の間には、様々な障壁が存在する。現実では複雑性に満ちた性質も、理想の中ではピュアにその理想が昇華される。例えば、漫画の中の少女達と…

空を舞う

外苑に住んでいる者達にとって、メトロポリスは憧れの存在であり、数少ない娯楽である。そんな中、上流階級の者達が住む、気取ったメトロポリスが、空…

マリオット盲点

家に帰ると、彼女が出迎えてくれる。出迎えてくれるといっても、玄関先に居るだけだ。労いの言葉をかけてくれはしない。彼女は、そのような言葉が無意…

煉獄の中で

歴史はまた一つ歳を取り、そしてまた、「世界」は浮き立った。そして今、私は「世界」と基底との間に居る。「世界」に選ばれなかった、お零れのための…

主よ

海底に飲み込まれつつある時、マズルを持つ少女は確かに、「キミとは海の底で出会いたかった」、そう言った。少女は、深海に真実を見たのだろうか。 深…

オナホールを廃棄する時

人工物には、必ず“終わり”が存在する。私の愛用していたオナホール、ボクのおなぺっとも、人工物の例に漏れず、終わりを迎えてしまった。他の工業製…

彼女達の物語

YouTuberの、食玩を唯淡々と紹介する動画を見るといつも、「妖精さん」達の事を思い浮かべてしまう。 彼女達は、男性向け性的コンテンツとして…

熱を出した

38.4度の熱を出した。体が気温の変化に耐えられなかったのだろう。 体の全身を駆け巡る痛み、独り身であるが故の孤独。白血球に味方してくれる彼等…

欲望のその先へ

人々は、社会という共同体で仮面を被りながら、欲望を実現しようともがいている。世のため人のためと活動している人も、何らかの欲を満たすために活動…

花火の余韻

花火大会から帰る、渋滞に巻き込まれたそのバスは、カップル達の密室だった。 花火の余韻に浸る彼・彼女達の、渋滞すらをも味方につけたようなその姿は…

彼女

私には、眠りに支配されそうになった時にだけ出会う事の出来る相棒が居る。空に向かってつんと立つキツネ耳に、牛乳ビン一つ分ほどの身長。とんぼのよ…

過去を夢見て

「男の娘」というジャンルが確立・定型化してから、早数年。この単語も、今では、手垢に塗れた代物に成り下がってしまった。少女から鞘を取り除き、竿…

夢の中に

夢を見た。OTBパブリッシングなる企業が発行したえっちぶっくを読む夢だ。 その中で、私は理想のえっち漫画に出会った。内容は、黒髪の猫耳少女が、…

精神的オナニー

陰鬱な気分を晴らすために 今日は正月です。 一族で集まり何もせずに時を過ごすといった、不毛極まりない、何も生産しない行為が正当化され、実行されて…